不破大黒。とは、わたしの幼馴染の名前である。
 眉目秀麗、とはこの男のためにあるような言葉で、一説では大黒がこの世に生まれたときに無から生えた四文字熟語であるとさえ言われている。ただ、大黒本人はまるで自分の見た目に興味がないみたいで、世間からの褒め言葉の大半は彼の頭に残らずに消えて行くばかりか「くだらん」と一蹴されてしまうのだから、当然彼の周りから人は消えて行った。大黒が排除していった、とも言えるけど。
 白に近い銀髪にガラスのような青目。怜悧で透徹な見た目の通り、取り付く島も隙もない男。それが不破大黒であり、産まれたときから傍に居る厄介な男の名前であった。

 話が変わったのは、中学に上がってからだ。

 幼、小と一緒だった大黒とは、中学で離れた。大黒の保護者はわたしが彼と同じ中学に進んでくれたら安心みたいだったけれど、受験を選んだわたしと学区内の中学を選んだ大黒で結局別々になってしまった。これは後から分かったことだけど、独自の研究分野の勉強を個人で進めたかったらしい大黒は元々中学は熱心に登校するつもりがなかったようで、受験はそもそも視野になかったみたいだった。幼馴染の贔屓目を抜きにしても恐らく全国の中学生で一番頭が良いのはこの不破大黒であるから、その気になればどこへでも行けた彼が言うなら本当にそうなのだろう。でも流石に、いつの間にか大黒の研究を支援する団体が出来ていたのは驚いた。
 時々、そんな支援者の人たちが大黒が一人で住む家に顔を出すことがあった。とはいっても、潔癖症で完璧主義の大黒のテリトリーに幼馴染であるわたし以外の他人が入ることは無い。どこに彼の大事なものがあって、どこに触ってはいけないものがあるか。それを覚えている人間しか、身の周りをうろつくことを許されない。
 ――はずだった。


 必要以上の外出をしたがらない大黒のために、日用品を買った帰り。いつものように合鍵を使って中に入ろうとしたとき、人の気配のなかった背後から、とん、と気さくに肩を叩かれてびくりと身が竦み上がった。
 次いで聞こえたのは水分のある籠った低い声。
 鼓膜を直接揺さぶるような響きのある声と共に、生暖かい呼気がわたしの耳元に流しこまれた。

「ちょっと良いかい? ……そう、今こっちを見たキミだよ、キミ」

 振り返れば、そこに居たのは大黒と同じ中学の制服を来た柘榴の目をした男の人だった。ハの字に付けられたピンで留められた前髪。首輪にも見える革のチョーカー。見上げるほど高い恵まれた長躯。大黒と並んでも見劣りしないほどに整った顔立ちをした男がわたしを見下ろしている。だが、楽しそうな表情とは裏腹に、その目は一切の感情を失くしていた。
「キミ、ファーさんの何?」
 苦々しい口調で、彼が言う。
「〝ファーさん〟?」
「……ああ。不破だよ。不破大黒。キミが今入ろうとした城の主さ。あろうことか合鍵なんて使ってね」
「これは、大黒から貰ったものだけど……」
「ファーさんから? まさか……本気で言ってる?」
 彼は一瞬鼻で笑ってから、何かに気付いたように眉を顰めて険しい顔をした。
「オレ以外の人間にファーさんが気を許したって? おいおい、冗談はよしてくれよ」
 芝居ががった大仰な身振りでそう言って、わたしをぎろりと睨みつける。血の滲んだ色をした瞳に捉えられ魔法にでもかかったみたいに動けなくなるわたしに対し、今にも手を上げそうな気迫で詰め寄る彼だったが、間もなくというところでその背後からガチャリと鍵の外れる音がした。
 続いて、ゆっくりと扉の開く音。
 救世主が現れた、とわたしは縋る思いで出てきた人を見た。
「お前にも気を許した覚えなどない」
 わたしのキラキラした眼差しをふてぶてしい態度で軽く弾き飛ばし、玄関に肩を預け身を傾けながら面倒臭そうに登場した救世主――否、家主の大黒が口を開いた。
 目の前の彼の注目は瞬時に大黒に切り替わった様子で、わたしは人知れずほっと胸をなでおろす。
「フフッ……盗み聞き? ファーさんも中々の趣味してるねぇ」
「聞きたくなくても聞こえてくる。集音装置が設置されてるのはお前も知ってるだろう。くだらん会話を家の前でするな、気が散る」
「だってさぁ、彼女がファーさん家に入ろうとしてたから気になって」
 無骨ながらも生白い人差し指がわたしに向けられ、二人の視線がわたしに集められる。大黒が小さくため息を吐いたのが分かった。実に面倒臭いって顔をまるで隠しもしないところが大黒らしい。
「……お前にはまだ言ってなかったな。俺の幼馴染だ。名は。身の周りの世話をさせるために合鍵を持たせてるだけでそれ以外の理由はない」
「幼馴染、ねえ。ファーさんとは小学校からの長い付き合いなのに、幼馴染が居るなんて知らなかったよ」
「わざわざ言う必要があるのか?」
「別に~? ただ、オレが気付かなかったのが不思議でさ。ファーさんが隠してたっていうなら分かるけど。そんなに大事だった?」
「愚問だな」
「あ、はぐらかしたぁ……まあ、いいさ。こうしてきちんと紹介してもらったことだし?」
 彼は目を眇めて頷くと、少しだけ身を屈めながらわたしに顔を近づけた。
「ああ、さっきはごめんね。オレとしたことがファーさんの〝大事な幼馴染〟に不躾な真似をしちまった」
 先ほどまでの剣呑な色を全く感じさせない友好的な顔で笑いかけられ、自然とわたしもつられて笑顔になってしまう。自分の感情をコントロールされるような不思議な魅力のある人だ、となんとなく感じたのが大黒には分かったのだろう。大黒は面倒臭そうな顔をさらに不機嫌にして深く息を吐いていた。もしかしたら〝大事な幼馴染〟の部分が引っ掛かってイラっとしただけかもしれないけれど。
「オレは織部明彦。ファーさんとは小学生のときに運命の出会いを果たしてねえ。すっかり虜にさせられて同じ中学まで着いてきたんだ。健気だろ? ま、ファーさんは全然学校に来ないんだけどさ」
「織部くん、改めましてです。別の小学校に友達がいるって話は何度か大黒に聞いたことがあるけど、それって織部くんのことだったんだね」
「……え? ファーさんオレの話してたの?」
「うん。話の合う奴と出会ったって、織部くんのことだと思う」
 余計なことを言うなという顔をした大黒をちらりと横眼に見ながら言っても、本人から訂正が入らない辺り正解だったらしい。
 織部くんはというと、わたしの言葉に酷く感銘を受けたみたいで、大黒の静観する態度を確認して刹那。ピシャーン! と背後に雷を落とした顔でわなわなと全身を震わせたかと思えば、がしりとわたしの両手を取って力強く握りしめた。温かい体温が手のひらから伝わって、彼がどれくらい興奮しているのかわたしも理解させられる。
 そしてここまでされれば初対面といえども察する。織部くんは距離感が近い人だ。近づけるのが上手い人だ。多分この強引さで、大黒とも仲良くなったんだろう。
、キミがいなければオレは一生ファーさんの言葉を知らないで生きていた。いくら感謝してもしきれない」
「大げさだよ」
「大げさじゃない。大げさじゃないんだよ」
 食い気味に返されて返す言葉を失う。それほどに織部くんが真剣な顔をしていたというのもあるけれど、今まで大黒がどれだけ周りの人間を切り捨ててきたのかを知っていたから。
 織部くんは握ったままの両手を解くと、謝意を込めながら一度だけわたしの頬を手の甲で上から下へ甘く撫でて、それから大黒へ笑いかけた。
「ところでファーさん、怒ってたならそう言ってくれない?」
「ふん、なぜお前に怒る必要がある?」
「えぇ? あのままファーさんが止めなきゃ、オレがを殴ってたから?」
 叱られる前の子供みたいに、わざとおどけて言った織部くんの物騒すぎる言葉に、大黒は呆れた顔して背を向ける。
「もしそうなったら、殴られてたのはお前だ。織部」
「はぁ?」
が鬱陶しいのは、人より腕が立つ部分だ。だから離れさせる手段が出来るまでは好きにさせている」
「それってつまり、ファーさんの頭脳でもまだ見つかってないって話?」
 冗談だと言外に匂わせる織部くんの返答に、大黒は流し目で彼を見て、わたしを見て、またあの面倒臭そうな顔で続けた。
「そういった意味では、織部。お前にも期待してたんだがな。面倒なのが二匹に増えただけだった」
 言いきって家の中へ消えて行く後ろ姿を、織部くんと二人で見送る。
「……」
「……
 数秒の硬直があって、織部くんがぎこちなくわたしを見た。
「今のって、ファーさんのデレってことでオーケイ?」
「うん。あれは褒めてるんだと思う」
「ハァ……マジかよ。と出会ってからものの数十分で既に一生分のファーさんのデレを貰った気がする」
 ほんのりと顔を赤らめて言う織部くんは、なんてことのない様子を振る舞おうとしているものの、無意識に持ちあがる頬を抑えつけようとして、口角が不自然にぴくぴくと痙攣している。
 手足が長くて骨格もしっかりしている織部くんは実年齢よりも大人っぽく感じてしまうけど、こういう表情をしているときはちゃんと年相応の顔に見える。
 ――何か良いな。織部くんって大黒といると、幼くなれるんだ。
 そう思って、そういえば大黒の方も普段より饒舌だった気がする、と気付く。恐らく、織部くんの会話の回し方が巧みなせいだ。
「織部くんと大黒って、良いコンビだね」
 大黒の隣に誰かが並ぶ姿なんて今まで想像すら出来なかったのに、織部くんはそこにしっくり収まった気がして自然とそんな言葉が口をついて出てしまった。でも、だからこそ、それがわたしの何よりの本音であると織部くんも構えずに受け取ることが出来たのだろう。
 彼は意味を理解すると一瞬のうちに破顔して、それから、
「なあ。ファーさんと結婚してオレを養子にする気はない?」
 息を吐くみたいに当然の顔をしてそう言い放った。
「え、えぇ……?」
「オレとキミとファーさん。全員同じ名字を名乗れて同じ家で暮らせる。最高じゃないか? オレは見た目も良いし、こう見えて色々と役に立つ。ナニとは言えないが、今後その必要があればの力にだってなってやれる」
 イロイロと、ね。肩の横に持ち上げた右手の人差し指と中指を、手招きするみたいに何度も折り曲げては戻す意味深なジェスチャーをしながら織部くんは喉を鳴らして笑う。
 わたしはと言えば、織部くんの言葉に衝撃を受けたまま戻ってこられなくなっていた。言われて初めて気が付いたのだ。そう言えばわたし、大黒のこと恋愛対象として見たことなかったな、って。
 性格に難はあるかもしれないけど、もう今更気にならない。ルックスはあの通りだし、声も、頭だって良い。それこそ非の打ちどころのない幼馴染ではある。ではある、けど、小さなときから一緒に居すぎて、もはや片割れみたいな感覚なのだ。そして嬉しいことに、多分大黒も同じように思ってくれている。
「うーん。結婚かぁ……三人で一緒に暮らすのは楽しそうだよね」
 だからわたしが言えたのはそんなありきたりな答えだった。それでも織部くんは満足だったらしい。
「だろ? ならそう言ってくれると思ってたよ」
 ハハハ、と初対面なのに旧知の仲のように気前よく頷いた織部くんは、一瞬の間の後、こちらにぐいっと顔を近づけしっかりと両の目線を合わせてから、わたしの頬に軽やかなキスを贈った。警戒させる間もない鮮やかな手管に、どんな感情よりも先に驚嘆が湧く。わたしよりも大柄で精悍な容姿をしているのに、良い意味で性別を感じさせない接触だった。本当に人の懐に入りこむのが上手い人なんだな、織部くんって。
「さっきから思ってたんだけど、織部くんって、スキンシップ好きなの?」
「いや? むしろファーさんとこそ、人が触れたくなる性質でもあるんじゃないか? 白いものほど汚れが目立つ、つまり、触れたくなる……キミたちにお似合いだ」
「大黒は確かに白いけど」
「フフ……見た目の話じゃない。中身の、もっと根の部分の話さ」
 わたしの心臓の辺りをトントンと人差し指で叩いて織部くんが目を細める。
「ベクトルは違うが、キミたちは二人とも無垢で真っ新だ。オレの好きな色をしてる。だからそんなキミたちに上手いことくっついてもらって、そこにオレを入れてもらえたら最高だったんだけど」
 また話が振り出しに戻ってしまった。わたしが明らかにそんな顔をしたのを見てしまった織部くんが、きょとんと眼を丸めた後、ハハハ! と口を大きく開け、それに見合った大きな声を上げて笑った。
 ――直後、再び背後の扉が静かに開かれた。
 剣呑な雰囲気を纏った大黒がわたしたちを無表情のまま、鬼の殺気で睨みつける。
 ちらりと隣を見れば、織部くんは怒られているのにどこか嬉しそうだった。

「やかましいと何度も言わせるな。それと、家族の真似事がしたいならお前らで付き合え。俺を巻きこむな」

 それだけ吐き捨てて用が済んだとすぐにまた家に引っ込んだ背中を見送って、どちらからともなくわたしと織部くんは目を見合わせた。

「今のはオレでも分かる。早く中に入って来い、って意味だ」
「巻き込むなとも言ってたけどね」
 鍵のかかってない玄関に手をかけて鼻歌を歌う織部くんに横やりを入れれば、彼は猫のように瞳孔を細くして首を傾げる。コロコロと器用に変わる表情。今日だけで沢山の表情を見せられて来たのに、織部くんのことはほとんど分からないのが面白い。すぐに本質を悟らせないところは、大黒によく似ていた。
 似た者同士。織部くんも、わたしと大黒をそう称した。
 ――なら織部くんは、わたしをどう思ってるんだろう? ふとそんな疑問が頭を過ったとき、織部くんの瞳孔が丸く広がった。
「それさ、オレとで付き合え、の間違いだろ?」
「え?」
「ファーさんの命令とあらばオレは大歓迎。大抵のモノなら壊す方が得意なんだが……キミのことなら大事にできる自信がある」
 またわたしの頬を手の甲で一度だけ柔くなぞって、織部くんが滔々と続ける。
「幼馴染って付加価値だけじゃごめんだが、キミが期待を裏切らない中身をしてるのが悪いんだ。味見だけじゃ引き返せなくなった」
 一歩、二歩。玄関の扉の先へ進んだ織部くんの後ろを追いかけて不破家に入ると、音を立てずに扉が閉められる。織部くんによってしっかり施錠させられた扉を開けることが出来る人間は、もうこの家の中にしかいなくなった。
 家主の習慣によりいつも清潔に保たれている不破家は、アルコールの匂いと大黒の匂いが中和して混ざりあった心地よい香りがする。生活感のある匂いではないけど落ち着く香りを嗅いで会話を途切れさせたわたしをよそに、先に靴を脱いだ織部くんは、そんなこちらの様子に気付くとおもむろにしゃがみ込んだ。
 それが靴を脱がせようとしてくれている動作だと気付いて、慌てて彼の肩に手を置いて止めさせる。
「そ、んなこと、しなくていいから……!」
「立ったままぼうっとしてるから、脱がしてほしいのかと思ったけど違った?」
「違うよ! わたし、そんなことさせるような人間に見える!?」
「見えないが、そこってそんなに問題?」
 吠えるわたしとは反対に、織部くんは真顔だった。あまりの視線の鋭利さに、反射的に怯んでしまう。
「わ、わかんないけど……」
「オレはキミを大事にしたい。これもその一部だ」
 だけどここで引いてしまうわけにもいかなくて必死にしがみつけば、返ってきたのは独りよがりの角張った善意だった。
「織部くんは、自分の好きなようにわたしを大事にしてくれるって事?」
「逆に聞くが、キミは何かを大事にするとき対象の意思を確認するのか? 自分の好意が相手を傷つけるのか一々確認するって?」
 わたしの言葉にそう言いきってみせたのに、その顔は切なそうで、なんだかこちらが悪いことをしてしまった気にさせられる。
 だからそれ以上何も言い返せなかった。
「……ただの遊びだろ、本気になるなよ。もう二度としないって」
「ううん。怒ったわけじゃないからそんな顔しないで」
「そんな顔って?」
「欲しかった本が絶版してた幼稚園のときの大黒みたいな顔」
「オレそんな可愛い顔してる?」
「してる」
 自分で脱いだ靴を二つ並べて、織部くんの靴と並べる。当たり前だけどわたしの足より一回り彼のほうが大きかった。
 二階にある大黒の私室に向かう前に、手荷物を居間で整理するために二人で連れ立って歩く。何気なく足元を見やれば、織部くんは、わたしに歩幅を合わせてくれていた。このひとの愛は、どんなバランス感覚で出来ているのか、不思議に思う。
「織部くんは、わたしと付き合うって本気で言ってるの?」
 だから、ふとそんなことを聞いてしまった。
「ファーさんとをくっつけることをまだ諦めちゃいないけど。はオレを好きになれない?」
 織部くんは立ち止まってそう言うと、音もなく壁に両手を突き出し、自分と壁の間に簡単にわたしを閉じ込めた。分厚い体に覆われて、わたしの顔に織部くんの形の影が出来る。
 頬を撫でたり、キスをしたり、靴を脱がせようとしたり、こうして囲ってみたり、織部くんの行動理念がわたしにはまるでわからない。でも多分、ここでわたしが怯えて、大黒を呼んだら彼はきっと喜ぶんだろうなということは分かっていた。
「わたし、織部くんのことほとんど知らないし……」
「……なあ。それ、オレには禁句だぜ?」
 無敵だ、と思った。
「自分のことをじっくり時間をかけて相手に教え込んでやるの、オレが〝この世〟で一番上手いから」
「……そうなんだ?」
「試してみるかい?」
「うーん。試さないけど」
「けど?」
 三人で暮らしたらやっぱり面白いかも、そんなことを言おうとして開きかけた唇は、押し付けられた織部くんの熱い唇で呆気なく黙らせられてしまった。
 数秒重なり合って離された接触に、どう反応するのが正解か分からず、一番に思ったことが口を突いて出る。
「……いま、何か教えてくれようとしたの?」
「何も。ただ無性にキミを汚したくなっただけだ」
 大黒を見るような鮮烈な目でわたしを見て、悪びれずに織部くんが宣う。何と返されても納得するつもりで聞いたけど、さすがに今の言葉は訂正したくなった。
「わたし、別に汚されてないよ」
「……ハハ」
 言えば、織部くんは眩しそうに目を細め何かを言おうとして、でも、小さく笑うだけで何も言わなかった。
 結局、このあと大黒が「性行為をするつもりならホテルに行け」とデリカシーのない発言と共に一階に降りて来るまでの長い時間、わたしは織部くんの体温の立ち込める太い腕の中に囚われたままだった。
全員悪役