ほとんど学校には顔を出さない人、というのが彼の印象だ。
 “赤木くん”。
 もしかしたらその名前すら面と向かって呼んだことがないかも知れないというほどに、彼は学校に来ない上に人との交流を取ろうとしない。噂では町の不良にリンチされて怪我を負ったから学校に来れないのだとか、家庭の事情が想像も出来ないほどに激しいだとか、そういったことが言われているけれど、私は月に一度訪れるか訪れないかというほどの彼の登校をこっそり楽しみにしている節があった。
 なんというか。
 彼はとても眉目麗しいのだ。


 実のところ、私と赤木くんは隣の席である。私が窓側で、彼が通路側。一番後ろの列ということもあってか、彼が居ないことが当たり前になりつつある教室では、誰も私の隣が空席であっても不思議がらない。「ああ、あそこは赤木の席か」という具合で、そこに彼が座っていなくとも全く気にしないのだ。むしろ、彼が居るときのほうがどこかそわついてたりする。彼が居るときの方がまるで自然じゃないみたいに、なるべく彼のほうを見ないようにしている風にさえ窺えた。
 私はといえば、彼が来た日はまた別の意味でそわついていた。彼はひどく顔立ちが綺麗だから、窓から差し込む夕日が彼の艶やかな白髪を照らした時などは特に心臓に悪いのだ。――彼が苦労しているのだろうといわれる所以のひとつであったその頭髪の色は、彼のどこか浮世離れした雰囲気をさらに助長させていた。根元まで銀がかったその髪は、脱色したふうには見えなかったし、おそらくしていないだろうと私は思った。一度だけ、見たことがあるのだ。黒板に書かれた文字を写しているのか紙に鉛筆を走らせる彼が、間違えたのであろう文字をぐりぐりと黒く塗りつぶしているところを。見たところ彼は、筆箱も、消しゴムの類も持っていないようだった。
 あのときは大雑把なのだな、くらいにしか思わなかったけれど、そんな人間が生え際と伸びた髪を甲斐甲斐しく確認するだろうか。彼の家庭事情は分からないがなんとなく世話をされる彼というのも想像出来なかったし、私は勝手にそう結論付けていた。

 そんな頼りない想像がはっきりと動き始めたのは、今日の朝会のときだった。赤木くんは相変わらず姿を見せてはいなかった。

 ――朝の十分やそこらの先生のお話。
 大体は簡単な連絡事項を伝えるくらいで重要な話なんてされないのが定石であったけれど、どうやら今日は違ったらしい。
 神妙な面持ちで口を開いた教師の顔を見ながら、私は漠然としか話を理解することが出来ずにいた。
 というのも、チキンラン、というのを私はその時初めて知ったのだ。それはどうやら「悪い男の子」の間で流行っている「遊び」らしいのだが、遊びというには危険すぎるそれは遂に昨日、重体者を出したらしかった。
 被害にあった少年の学校は私の通うこの中学からほど近い学校だった。話を聞いていれば、チキンランは二人の少年の間で行われ、一人は重傷、一人は海へ落ちた後泳いで逃げたというのだから驚いた。
 重々しい教師の口ぶりとは反対に、真面目に聞いている生徒の少ない教室の中、教師はふうと息を吐くと腕を組み直しながら「その生き残りがもしかしたらまだこの町に居るかもしれない」「どんな不良か分からないから気をつけるように」とはき捨てるように続けた。
 ざわざわと弛みきった空気の中。
 私は正直、あっ、と思っていた。
 思っていて、必死に口を噤んだ。
 噤んで、けれど視線だけは緩慢と「隣」に送ってしまった。
 なぜだかその生き残りが「そこ」に本来居るべき彼なのではないかと思ってしまったからだ。


 ◇


 ここ数日――教師が「チキンラン」の話をした日からずっと――豪雨が続いていた。傘もほとんど役に立たないだろうと言われるくらいには雨風の強い日が続き、学校の授業も午前だけで切り上げられることになった。
 私は学校から少しだけ距離のあるところに家を構えていたため、帰宅時間を考慮しつつ帰る間をはかっている内に中々雨が強くなってしまい、学校からすぐの煙草屋の軒下で雨宿りをしたはいいものの、そこから動けない状態に陥っていた。
 そこに来るまで差していた傘の骨は不規則に訪れる暴風に巻き込まれ折れ、雫をしたたらせるそれは細々とした骨組みがあられもない方向に向いてしまっていた。途方に暮れるとはまさにこのことで、風は落ち着いたものの(とはいえまたいつ吹き荒れるかは分からないが)全く弱まる素振りを見せない雨を見上げながら、私は困った顔でその場にしゃがみこんだ。店の奥に居るであろう煙草屋の店主が私を追いだそうとしないだけマシかも知れなかったが、けれどもその足元もすっかり黒く滲んでしまっていた。
 雨脚が弱まるのを待つべきか、それともここいらで見切りをつけて走り帰るべきか――そう悩んで唸っていれば、私の足元に繋がっていた水たまりがぴちゃりと音を立てて跳ね上がった。
 誰かが隣に来た、ということは明らかであったが、それが誰であるかということは確認する必要がなかった。
 水たまりの表面にうっすらと“白い雲”が浮かんだからだ。
「……赤木くん」
 顔を上げる前に口から零れた言葉は、水たまりを伝ってその雲を揺らした。こんなにも綺麗な白髪を持つ人など、恐らく彼を抜いて他には居ないだろう。老人や、染髪された人物という発想は不思議と浮かばなかった。彼独特の雰囲気を感じた、というのもあったせいかも知れない。私は何故だか、彼が水たまりに反射したことに僅かばかりの驚きを抱いていた。当たり前のことであるというのに、意外であると感じてしまった。それでも頭の真ん中では、そこに居る人間が「赤木くん」であるという確証を持っていたのだからどうしようもなかった。
「…………」
「…………、」
 ややあって恐る恐る、返事のない頭上を見上げれば、口を開かずとも「彼」ははっきりとこちらを見下ろしていた。
 ――こんな雨だ。
 例外なく彼も降られてきたのだろう。水分を含んだ制服から徐々に目線を上げていけば、綺麗に色の抜けた白い短髪が、雨水に濡れて銀色味を帯びていたのが見てとれた。そのとき、肌色の頭皮が薄らと浮かんでいるところを見て、私はぼんやりと「やっぱり染めていないんだなぁ」などとどうでもいいことを考えていたのだけれど、彼はそんな私をじっと見つめた後、緩やかにその視線を空へと映した。
 私が名前を呼んだことは、気にしていないのか、素知らぬふりを浮かべた彼の横顔は僅かに震えると、間を置かずして形の整った唇がゆっくりと開かれる。

「……この雨はやまないよ。むしろこれからどんどん酷くなるだろうね。雨宿りをするくらいなら帰ったほうがいい」
 彼の声をはっきりと耳にしたのはこれが初めてだった。
 落ち着いた、抑揚のない掠れた声が、私の耳を緩やかに撫でていく。それに感動していると、赤木くんは怪訝そうに私に視線を寄こしてから、空手だった両手をズボンのポケットに突っ込んだ。
「赤木くんは? それならどうして雨宿りをしているの?」
「……これが雨宿りに見えるかい?」
「うん」
「もうこんなにも濡れているのに?」
「…………」
 自身の制服の裾を顎でさしながら彼が小さく笑う。
 それに確かに、と頷きながら今しがた彼が歩いてきたであろう道を見やりながら私は笑い返した。
「なら、帰ればいいのに」
「それがそうも行かないのさ」
「?」
「家に帰れない理由があってね」
「えっ、ご両親と喧嘩でもしたの?」
 話しの内容とは裏腹にどこか愉快げな顔を貼り付けた赤木くんが当たり前のようにそう目を細めるので、もしかしてあの噂は本当だったのだろうか、と思い尋ねれば、彼はふと逡巡した様子を見せたあと、口角をにじり上げるように持ち上げて苦笑した。
「……いや。……でもまあ、似たようなもんか」
「……?」
「“相手”、相当怒ってたみたいだし、今だって俺のことを探しているだろうから、少しの間だけこうして身を隠しているんだ」
「こんな雨の中、追ってくるかな? 帰ってくるのを待ってるんじゃないの?」
「さぁね」
 両親のことを言っているにしてはやけによそよそしい呼び方だな、と首を傾げながらも、思ったことを口にすれば彼はもうその話題に興味を失ったようで、ポケットに入れていた手を空へ向けて翳しながら雨を掬って遊んでいるみたいだった。
 それを横目に見ながら、
(不思議な人だなぁ……)
 ――などとぼうっと考えていたら、今まで遠くに感じていた彼に言いようのない親近感のような錯覚を感じて、まるで友達に話しかけるみたいに、ふと脳裏をよぎった言葉が口を滑った。
 とても彼に言うつもりなんて無かった、一言が。

「赤木くんって、水、好きなの?」
 あっ。
 と、思ったときには遅く、雨を存分に掬った手のひらをぷらんと下げて彼が私を睨んだ。
「……へぇ、意外だな」
 それまで私の黒眼の端っこに映り込んでいた赤木くんが、言葉と一緒にちゃぷちゃぷと地面を蹴って私の目の前に立つと、その中心を覆い隠すように立ちはだかる。
 否、正確にはきっと違う。彼を見てはいけないと私は思っているはずなのに、何故だか視線が吸い寄せられるように彼に向かって進んでしまうのだ。けれどもそうしてぴったりと注がれたその眼光を受け止めてみて、彼の瞳の色素がとても薄いことに気がつけたのだから良かったのかも知れなかった。私の見詰めた先で、髪の毛よりほんの少しだけ暗い銀色が、逆光に当てられてその縁を綺麗に光らせている。
さんって、結構鋭いんだね」
 私の言葉も、彼の返答も「その奥」については一言も言っていないというのに、二人にはその短い会話の応酬が一体「何」を表しているかなど分かり切ったことだった。
 やはり、彼はあの「生き残り」の方だったのだ。
 そうなってしまえば、彼が先ほどぼやかしていた“相手”の存在にも納得がいった。
「私の名前……知ってたんだ」
「……面白いことを言うね。当たり前でしょ、隣の席なんだから」
「でも、赤木くん全然学校来ないし……同級生になんて興味ないのかと思ってた」
「興味はないけど」
「…………」
「でも、隣の席って重要でしょ。学校生活ではさ」
「……来ないのに?」
「俺じゃない。さんにとって」
「?」
 びしょびしょに濡れた手のひらを、同じようにびしょびしょに濡れたズボンで拭いている赤木くんが何だかちぐはぐで、私は彼から与えられた言葉を咀嚼しながらもひたすらに首を傾げるばかりだった。私を一瞬睨むように見つめた彼の視線は先ほどより幾許かその鋭さを失ってはいたものの、尚もまだ私を射抜くように注がれていたから、私は妙な気恥かしさに彼から視線を外してしまった。
 彼は、なんというか、酷く顔立ちが綺麗であるから、直視しているのは心臓に悪かったのだ。
「でも、まさか話しかけられるとは思ってなかったな。最近、他意しかない連中にしか名前を呼ばれてなかったから、新鮮だった」
 ……けれどもそれも、私のそんな気など知りもしない口調で注がれた言葉にすぐ戻されることになるのだけれど、
「もしかして……ちょっと馬鹿にしてる?」
「まさか」
「…………」
 戻した先に居た彼の顔が思ったよりも柔和なものだったから、少しだけ、言葉に困った。

「クク……言ったでしょ、鋭いんだね、って」
 ――褒めてるんだよ。
(なんだ。気のせいだ。……やっぱり、馬鹿にしてる)
 とはいえ、私の惚けた顔を見て、彼がそう言って笑ったのだと分かると、微かに高鳴った心臓もしゅわしゅわとその緊張を解きほぐしていく。
 ただ、一つ分かったのが、赤木くんは私が思っていたよりもずっととっつきやすい人なのかも知れない、ということだ。
 こちらが何かを問いかければきちんと返してくれるし、感情の機微だって僅かだけど窺える。学校で見かけた時はまるで神聖で、話しかけてはいけないような雰囲気さえ纏っているふうに見えるのに、それはこっちが勝手に作り上げてしまったものだったのだろう。
 彼は思っていたよりも年相応だった。

「それで、さんはまだ帰らないの?」
 そんなことを考えていれば、赤木くんがふと思い出したように私に投げかける。
 そう言えば……と空を見上げれば、先ほどよりも更に勢いの強くなった雨粒がざあざあと地面に降り注いでいるのが見えて、私は手に掴んだままだった骨の折れた傘と空とを見比べてがくりと肩を落とした。彼と話せたことで舞いあがって忘れてしまっていたのだ。
 “雨はこれからもっと強くなる”、と彼が忠告してくれていたこと……傘はもう使い物にはならないということ……。
 赤木くんとこうして話す機会なんて滅多にないだろうし、もう少しお話していたい気持ちもあったけれど、もしこれ以上雨風が強くなるとしたら本格的に私は雨が止むまで家に帰れなくなってしまうかも知れない。
(今なら風もないみたいだし、走って帰ればとりあえずはなんとかなるかも……)
 そう思い、ぐ、っと傘の柄を握って立ち上がってから、私は僅かに固まった。立ち上がった体勢のまま微動だにしない私を彼が怪訝そうに見ているのが分かる。
「……赤木くんは?」
「俺はもう少しここに居るよ」
「じゃあ私ももう少しだけここに居る」
「……いいの? 帰れなくなっても」
「うん」
「……そう」
 “雨宿りをするくらいなら帰った方がいい”
 “結構鋭いんだね”

 ……立ち上がったとき。
 ふと彼の言った言葉が頭を巡って私の体を引きとめた。

 “まだ帰らないの?”
 “もう少しここに居るよ”

 何故だかは分からないけれど、無性に、この雨はやむような気がしてしまったのだ。


 ◇


 それからしばらく、何を話すというわけでもなくただ隣に居るだけで流れていく時間を二人で共有していた。
 ざあざあと流れる雨の音に紛れて赤木くんの吐息の音が耳を掠めると、思わず視線をそっちに送ってしまったりして、私としてはそれだけで新鮮で、時間の経過なんてとても計れるような状態ではなかった。
 状況が変わったのは、すん、と鼻をついていた「雨のにおい」が薄まった気配を感じたときからだった。
 あれほどに強かった雨脚が嘘のように引き上げられ、ざあざあという音がさあさあという弱いものへ、そしてぽつぽつと数滴の雫を落とすだけで、やがて完全にその姿を雲の奥へと隠してしまうと、ついに辺りは色を濃くしたコンクリートと沢山の水たまりが残されただけになってしまった。
「……雨、止んだね」
 暫く声を発していなかった喉はすっかり干からびていて、そんな短い言葉でさえ喉を通って行くのがやっとだった。
 彼に投げかけた後小さく、けほん、と咳を零せば、その音に反応したのか、彼が少しだけ驚いた顔でこちらを見やるのが分かった。

さんも妙なツキに恵まれているみたいだ」
「……ツキ?」
「……良かったじゃない。これで無事に家に帰れるんだ」
「うん」
 私はといえば、そんな彼の態度に言いようの無い歯切れの悪さのようなものを感じていた。彼が嘘をついていたんじゃないかとか、そんな事では無くて、もっと大きな目的が彼にはあったのではないかと思えてならなかった。
 ツキ、という言葉は、いわばその引っかかり。
 先を促すような私の視線に彼も気がついているのだろう、驚いた顔は一瞬にしていつもの意地悪そうな笑みになって私に向けられた。
「雨のことなら、嘘はついていないよ。だからこそ、あんたのことをツイてると思ったんだ」
「……雨“の”こと?」
「フフ……もうひとつのことは、そういう類じゃない。いわば賭けのようなもの……」

 賭け、という不穏な一言に私が僅かに瞠目すれば、赤木くんは頭上に垂らされた煙草屋の看板を指差して手首を振るう。
「この煙草屋の前。ここが相手の所謂溜まり場だってことは前から知っていた。だから此処に居れば来るんじゃないかって思ってたんだけど……どうやら本当に奴ら、家のほうへ行ったのかも知れないね」
「……え?」
「運が良いんだか悪いんだか……」
「それって、」
「どちらかなのかは分からないのだから、家に帰れないっていうのはそういう意味では本当の事……でも俺としては此処が“当たり”なんじゃないかと踏んでいたってわけ」
「…………」
「もし奴らが此処に来ていたらもしかしたらあんたも……」
 赤木くんの言う「相手」が誰を指しているのか、ということはさっきの話で分かっていたことだ。ってことはきっと、相手は赤木くんに報復のようなものをしにくるに違いなかった。彼が吹っ掛けてきたのか、それとも吹っ掛けられたのかは分からないけれど、勝負には恐らく赤木くんが勝ったのだ。それは彼がこうして生きていることから察し得ること。
 それを、彼が分からないはずがない。
 “当たり”――つまり彼にとって、今この状況は“はずれ”に他ならない。此処に相手が居ないという状況が。
(それって……)
「待ってたってこと?」
「え?」
「その人たちのこと……赤木くんは……」
 “もしここに彼らが来ていたら私がどうなっていたか”
 ……なんて、赤木くんがそれを私に言うってことは、それは彼にとって「大したことではない」ってことだ。そう考えれば、彼が浮世離れしているように感じる理由が、なんとなくわかったような気がした。
「ああ、待っていたというか……自分のことを嫌っている人間がこの世に居ると分かったら、誰だって良い気はしないでしょ。だったら早めに片づけた方が精神的にも健康だってこと」
「…………」
「まぁ、それも持ち越しみたいだけどね」
 なんてことのない口調でそういう赤木くんを見ていたら、ふと、以前彼が文字の訂正を鉛筆で黒く塗りつぶしていたことを思い出した。彼にとって恐らく修正とは、直したりすることではなく、消すこと――それも元通りに消すことではなく、上から塗りつぶして抹消させること……それは何も文字だけではないのだろう。
 そして何より異常なのは、彼が「それをやられても構わない」と思っていること……自分がやり得ることは、他人にやられても良いと思っているということだった。
 それでも彼はきっと、自分の本意ではないところで第三者が不利益を被ることを嫌う。だから、たぶん口ではああ言っていても、私を巻き込む気なんて無かったはずだ。
 そう思ったら、何故だか、赤木くんがとても優しい人のように感じてしまってどうしようもなかった。
 私は多分、迂闊にも、彼のそんな危ういところを気に入ってしまったのだろう。

「私がもし、さっき帰ってたら……その人たち、ここに来てたかも知れないね」
 傘の先端で地面をつつきながら、すっかりと雲の少なくなった青空を見上げそう言えば、彼は今まで見せたことの無いような屈託のない表情でわらいながら、さも楽しそうにこちらに向かってゆっくりと手を伸ばした。

「ねえさん。その折れた傘、俺にちょうだい」

 今度こそ、はっきりと彼から告げられたそれは紛れもない犯行予告に違いなかった。
 けれどもそう強いられれば、その先がどんなに危ない道だと分かりながらも、私が一体それを何に使うのかと聞いてしまうと、彼はきっと私に会う前から知っていたのだ。
落石のおそれあり